東京高等裁判所 昭和26年(ネ)2185号 判決
被控訴人は控訴人に対し金三万六千四百四十八円十四銭を支払うべし。
訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。
この判決は控訴人において金一万円の担保を供するときは仮りに執行することができる。
二、事 実
控訴代理人は主文第一ないし第三項同旨の判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。
当事者双方の事実上の陳述は、被控訴代理人において、被控訴人が、控訴人から送付にかかる控訴人主張の数量の西瓜をその主張の代金で販売したこと、その販売手数料及び立替運賃が控訴人主張のとおりであることはこれを認めるが、被控訴人が右販売をしたのは訴外協同組合米沢青果食品市場からの委託によるもので、その販売によつて得た代金はすべて右組合に支払済であると述べ、控訴代理人において原判決第二枚目裏一行目に商法第五百十二条とあるのは商法第五百五十二条の誤りであると述べた外、原判決に事実として記載されたところと同一であるからここにこれを引用する。
<立証省略>
三、理 由
控訴人が昭和二十五年七月十八日西瓜二百四十三梱(七百八貫百八十匁)を出荷したところ、同月二十一日被控訴人が右西瓜を受取つた上、その頃被控訴人経営の市場においてこれを代金四万七千五百十一円七十九銭で販売したことは当事者間に争がない。
控訴人は、右西瓜は控訴人において当初被控訴人に対し販売を委託したものであると主張するけれども、これを認めるに足りる的確な証拠はない。もつとも原審における控訴人本人及び被控訴人代表者各尋問の結果によれば、被控訴人は右西瓜引取の後直ちに控訴人に対し「荷が着いた、せいぜい高く売る」という趣旨を電報で通知したことが明らかであるけれども、右西瓜が被控訴人に送達された事情は後記のとおりであつて、控訴人の出荷した西瓜が被控訴人に送達されたこと自体から控訴人が被控訴人に対し販売委託の申込をしたものと見ることは相当でないから、被控訴人の右電報は委託申込に対する承諾と解すべきものではなく、また控訴人が被控訴人と平常取引ある者であることはこれを認めるべきなんらの証拠もないから、右被控訴人の電報を売買受託の申込とし、控訴人がこれに対し遅滞なく諾否の通知を発しなかつたものとして(商法五〇九)ここに売買委託契約の成立があるものと解することもできない。
控訴人はさらに右着荷の後同年八月十二日あらためて控訴人と被控訴人間に販売委託契約が成立した旨主張するけれども、これについてもこれを認めるに足りる証拠はない。
では、控訴人の出荷にかかる西瓜を被控訴人が受取つて販売したのはどういうわけであつたかというに、成立に争ない甲第一号証の記載、原審における証人鈴木章夫、同三原宗兵衛、同島貫市太郎、同渋谷寅之助、同丹藤津根佐久の各証言、同控訴人本人被控訴人代表者各尋問の結果に本件口頭弁論の全趣旨をあわせ考えると、次のように認められる。すなわち、控訴人は肩書住所地で兼作商店という商号を使つて青果物の販売を業としているところ米沢市立町にあつて青果物の委託販売を業とする問屋である訴外協同組合米沢青果食品市場(以下訴外市場という)に本件西瓜の販売を委託し、その運送を日本通運株式会社に委託したのであるが、その際、荷受人の表示をたんに「米沢青果市場」とし、着駅を米沢駅と指定した外相手方の正確な表示をしなかつたため、日本通運株式会社米沢支店米沢出張所では、これを米沢市桐町にあつて、訴外市場と同様の問屋を営んでおり、似かよつた名称の被控訴人に宛てた品物と誤解し、被控訴人に対してその引取を求めたところ、被控訴人の方でも、自分に宛てた委託商品と誤解し運賃の立替支払をもして、これを引取つた。他方訴外市場は、控訴人から出荷通知の電報をうけて品物の着くのを待つていても、品物が着かないので調べてみたら、右西瓜が誤つて被控訴人に配達されたことがわかつた。そこで、人を介して被控訴人と交渉したところ、被控訴人も右誤配の事情を認めて一旦は品物を被控訴人から訴外市場に返還して解決しようとしたが、もうそれより前に被控訴人の市場で右品物の一部を仕切つて売つてしまつていたので、さらに協議の上、控訴人から委託を受けた訴外市場から被控訴人にたいして、本件西瓜の販売を委託することとし、被控訴人は、この合意にもとずいて、その市場において前記のように全部を販売し終つたのであるという次第である。
控訴人は、訴外市場は控訴人との委託契約によつて受託したものをさらに被控訴人に再委託したものであるから、商法第五百五十二条により準用される民法第百七条第二項により、被控訴人は直接本人である控訴人に対しその委託売上代金を支払うべき義務があると主張するのでこの点について検討するに、
右訴外市場は問屋を業とする者であるから、原則として自ら自己の名をもつて委託者のために委託の本旨に従い委託にかかる物品の販売をし、その計算の結果を委託者に帰せしめるべきものであるが、問屋と委託者との間においては委任及び代理の規定の準用があるから、民法復代理の規定(第一〇四条、第一〇七条等)もその趣旨に反しない限り準用があるものと解すべく、従つて委託者の許諾を得たとき又は已むを得ない事由があるときは、その受託事務を他の者に再委託することができるのである。
ところで本件においては、訴外市場が本件西瓜の販売を被控訴人に再委託するについて控訴人の許諾を得たことはこれを認めるべきなんらの資料もないが、前認定のように本件西瓜がはじめ、右訴外市場と同種の問屋である被控訴人に誤配され、被控訴人も自己に委託された商品と誤解して運賃を立替支払の上、これを引取りその一部分はすでに販売したという事情があり、かつその委託商品が季節に関係あり、敏速に処分することを必要とする青果物であることをあわせ考えれば、右再委託は、取引上の行きちがいの結果を解決するためにやむを得ない処置であつたと認められるから、やむを得ない事由があつたものと解すべきである。従つてこれにより被控訴人は直接控訴人に対し訴外市場と同一の権利義務を取得し、その販売によつて得た代金中から報酬(手数料)及び立替金等自己の取得すべきものを控除した残額を控訴人に支払うべき義務あるものといわなければならない。被控訴人が右販売によつて得た代金が合計四万七千五百十一円七十九銭であることは前示のとおりであり、このうち被控訴人の販売手数料及び立替運賃の合計が金一万一千五十三円六十五銭(原判決の事実摘示中右手数料が一万千五十三円六十五銭で立替運賃が、八千六百七十八円であるとする記載は原審証人鈴木章夫の証言により成立を認めるべき甲第二号証の記載により誤記と認めるべく、右両項目の合計が一万一千五十三円六十五銭となること計算上明らかである。)であることは、当事者間に争がないから、被控訴人の支払うべき金額は右売上金からこれを控除した金三万六千四百五十八円十四銭となる。
被控訴人は右金員は被控訴人に対する委託者である訴外市場に対しすでに全部支払済であると主張するから、さらにこの点についても考察する。すでにのべたように再委託にもとずく受託者は直接委託者に対して権利義務の関係に立つものであるから、委託者は直接再委託の受託者に対して委託事務処理の結果を請求し得、その反面再委託の受託者は直接委託者に対し報酬等を請求し得るのであつて、決して第一次の受託者を通じてのみ互いに権利を行使し得るものと解すべきではない。従つて第二次の受託者としては、第一次の受託者が委託者に代つて弁済を受領する権限がある場合、もしくは第一次の受託者が第二次の受託者から受領したものを現実に委託者に引渡した場合等特段の事情があればかくべつ、しからざる限りたんに第一次の受託者に対して弁済したことをもつて委託者に対抗し得るものでなく、委託者に対する義務を免れ得るものではないと解するのが相当である。本件において第一次の受託者たる訴外市場が特に委託者たる控訴人に代つて被控訴人から弁済を受ける権限を有したことはこれを認めるべきなんらの証拠もなく、第一次の受託者たる地位にあることから当然にかかる権限もあるものと解すべきものでもない。むしろ前記控訴人本人尋問の結果によれば、被控訴人は荷物の送達にあたつた日本通運株式会社の係員から代金は荷主たる控訴人に支払うのが当然であるとの注意もあつたのに強いて訴外市場に支払うこととしたもので、しかも売上代金のうち金一万五千円を現金で支払つたことは前記証人丹藤津根佐久の証言及び被控訴人代表者尋問の結果及びこれにより成立を認め得る乙第二号証の記載により明らかであるが、その残額はたんに支払済というに止まり果して現金で支払つたのか訴外市場の従来の債務と相殺したのかは必ずしも証拠上明らかでなく、かつ又訴外市場が被控訴人から受領したものを控訴人に支払つたことはこれを認めるべきなんらの証拠もないところである。従つて被控訴人は訴外市場に対して支払をしたからということで控訴人の請求を拒むことはできないものというべきである。
しからば被控訴人に対し被控訴人の支払義務ある金員のうち金三万六千四百四十八円十四銭の支払を求める控訴人の本訴請求は正当として認容すべきものである。これと反対の原判決はこれを取消すべく、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九十六条第八十九条、仮執行の宣言につき同法第百九十六条を各適用し、主文のとおり判決する。
(裁判官 藤江忠二郎 薄根正男 浅沼武)